情報
清宵
清宵 VA
中国語: Jiang He
日本語: 生天目仁美
韓国語: Park Ri Na
英語: Kirsty Rider
清宵 のフォルテ調査報告
共鳴力
天地弦心剣
共鳴評価報告
「諦天鑑 より夢令尹へ謹呈:玄方地界 における鎮玄司騎の新設について」
……
軍策府 の依頼を受けた華胥研究院 の調査によれば、当人の共鳴歴は百年を優に超えており、その起源を辿ることはほぼ不可能である。頭部には流雲を思わせる双角が存在するが、これは共鳴による身体的特徴の顕現である。瑝覧類書に記される、万物に通ずる瑞獣との関連も推測される。
特筆すべきは「心剣」である。心に抱く念をそのまま剣意へと変じ、一瞬にして無数の飛剣を生み出す。また、意のままに飛剣を操ることもでき、剣光の届く先では邪気が消え失せ、あらゆる妖魔を退く。剣術そのものは後天的に修めたものであるが、当人はすでに「無剣」の境地に至っており──剣意を万物に宿し、音律に溶け込ませることで、琴を爪弾き、あるいは花や葉を飛ばすことさえも、そのまま剣撃となるのである。
かつて披露した清心の術等の術法は、修真者が共鳴によって周波数を整える妙技と見られるが、未だ機序に不明な点も多く、今後の検証が待たれる。
……
令尹 の裁可:
神業の如き剣法と卓越した力量については、かねてより耳にしている。この人事は、玄方地界にとって喜ばしいことと言えよう。文書が諦天鑑を経て届けられた以上、歳主の御意向と見て相違あるまい。
州監の返答:
仰せの通りにございます。令尹におかれましては、どうかご懸念なさいませんよう。
オーバークロック診断報告
「玄方地界 ・華胥研究院 発行 オーバークロック 鑑定報告」
被検者は自然型共鳴者 。固有波形は常に一定の安定した曲線を描いており、異常は見られない。
診断結果:現在のオーバークロック耐性は極めて高い。ピーク値は臨界値へ緩やかに接近しつつ収束しており、安定性は高いと判断できる。
過去の院内記録と照合した結果、対象のオーバークロック臨界値および波形の平均値は、経年変化に伴い同調して上昇し続けている。
過去のオーバークロック歴は見当たらないため、心理カウンセリングは不要。
担当医の備忘録:
波形は臨界値ぎりぎりまで迫り、ピークは上限すれすれを推移している。それでいて一度も一線を越えたことがないとは、まったく見事と言うほかない。普通の共鳴者なら、感情がわずかに揺れただけでオーバークロックに陥る水準だ。修真者は心を修め、共鳴を安定させる術に長けていると聞くが……まさか清宵真人は、これを意図的に制御しているというのか?
清宵 の大切なアイテム&好物

『瑝瓏残像集録』
先駆条約が刊行した『瑝瓏残像集録』は、瑝瓏 各州に生息する数百種もの残像について、分布や習性、能力、さらには対処法までを網羅した、極めて実用的な一冊である。発行からすでに長い年月が経っており、原書の言い回しは瑝瓏以外の読者には難解であるため、簡約版も出回っている。瑝瓏を訪れる探検家や旅人の多くは、万が一の備えとしてこれを一冊携行している。
一説によれば、著者である謎の人物「清」の正体は、深い境地に達した隠士の大家だとされる。若き日に瑝瓏全土を巡って残像をくまなく観察し、百年がかりの編纂の末に、ようやくこの書を完成させたと言われている。

「青虚如意袋」
かつて巷には、こんな噂が流れていた──清宵司騎の持つあの袋は、世にも稀なる貴い素材でできており、水火を寄せつけず、中には別天地が広がっている。彼女が旅路で手に入れた名剣や古物も、悪徒から取り上げた数々の法宝も、すべてあの中に眠っているのだ、と。
だが実際は、それほど大層なものではない。中に入っているのは、折り畳んだ夢州 の地図に風水羅盤、陣法の呪符といった、すぐに取り出して使える小物ばかりである。そもそもこの袋は、清宵が昔使っていた一枚の剣拭き布を縫い直して作ったものだ。剣の道を歩み始めたばかりの頃、彼女はよく月明かりの下でこの布を手に取り、わずかな汚れも残さぬよう、迅刀をひと拭きひと拭き丁寧に磨いていたという。

平安紐
珠玉をあしらった、素朴な赤紐。穏やかな剣気が染み込んでいるものの、長い歳月の流れが刻んだ傷みまでは隠せない。並の邪気であれば、目にしただけでたちまち退散するほどだ。瑝瓏 の古き習わしでは、年長者が子どもにこうした飾りを持たせ、魔除けや幸福祈願の護符として、その行く末の平安を願ったという。
清宵は今も、この赤紐を手放さずにいる。この身に残された、たった一筋の俗世との縁を忘れぬために。
清宵 のストーリー
司騎たるもの
鎮玄司騎が軍策府 に現れる──それ自体が、めったにない出来事だった。
清宵が飛剣から降り立つと、府内の人々は次々と手を止め、彼女へと視線を送る。
彼女は先ほど、秋鴻衛長・梁鳶からの伝書を受け、とある咎庭 から逃走した数十体の残像の討伐へ赴いたばかりだった。ここへ来たのは、その結果を衛長へ報告するためである。
「すべて片付けた」と、清宵は短く告げる。
衛長は礼を述べて頷いたものの、その眉間に刻まれた皺は消えない。ここ数年、咎庭の警備交代では不備が絶えなかった。混乱に紛れて残像が逃げ出すこともあれば、機巧の故障によって異常が発生することもある。今の後玄三騎は勇猛で息もぴったりだが、一人が重傷を負って第一線を退いてからは、若い定玄衛が臨時でその穴を埋めている。経験の浅い彼女には、どうしても手の回らない場面がある。一刻も早く、正式な後任を選ばなければならない。
とはいえ、それは清宵には関わりのない話だった。飛剣へ足をかけようとしたその時、不意にためらいがちな声が彼女を呼び止めた。
「仙人様! ……じゃなくて、清宵司騎! 私……剣を教えていただきたいんです。だめ……でしょうか?」
振り返った清宵の目に映ったのは、髪をきりりと束ねた少女──椋羽だった。手には一振りの長槍が握られている。その表情には、迷いの色が浮かんでいた。
「青枳と杜仲と、しばらく一緒に戦ってきたんです。でも二人とも、やっぱり剣士との連携のほうが慣れているみたいで……。私の得物は槍ですから……その……」
「人に教えるのは得意ではない。それに、あなたが剣を学ぶ必要もない」清宵の口調は、いつも通り淡々としていた。
「そう……ですよね。分かりました……」椋羽は伏し目がちに呟いた。「それでは、ほかの方法を考えてみます」
「だが、槍ならば……教えてやってもよい」
「えっ?」
目の前の女性の身のこなしは、飛び立つ燕のように軽やかだった。銀の槍はその手の中で自在に舞い、風の流れに応じて姿を変えながら、月白の軌跡を幾筋も宙へ描いていく。それは武人の得物というより、書家の筆のように、一つ一つの型が行雲流水のごとく、自在に運ばれていた。
椋羽は、あんぐりと口を開けたまま固まっていた。
「清宵司騎……槍までお使いになれるんですか?」
「昔、人が使うのを見たことがあるだけだ。天下の武芸は、どこかで通じ合っている。心の赴くまま槍先を届けられるなら、その槍は剣にも引けを取らない」
清宵はそう言って、槍を椋羽へ返した。
「やってみるがよい」
椋羽は覚悟を決めて、清宵の示した型を一通りなぞってみた。だが、型は乱れたままで、隙だらけだった。
「もう一度だ」
清宵は短く促した。
日が暮れるまで稽古を重ねても、椋羽はまだ形にできずにいた。清宵は手取り足取り教えることはしない。示される槍法はあまりに高度で、その動きには千変万化の気配が宿っていた。それでも椋羽は諦めず、槍の勢いの移ろいを感じ取り続けた。そして、ふとした瞬間──槍先が風とともに空を裂き、これまでとはまるで違う鋭さを放った。
はっと我に返った椋羽の耳に、小さな拍手が届く。清宵だった。
「掴んだな」
「でも私、清宵司騎の動きには全然ついていけなくて……」
「まったく同じにできたなら、それはかえってあなた自身の悟りではなくなるだろう」
清宵の表情は、珍しく柔らかかった。
「心はすでに届いている。あとは日々の稽古を重ねるのみ」
椋羽はぽかんと清宵を見つめ、やがて、何かを掴んだように深く頷いた。
その後、軍策府には新たな後玄騎使 が正式に迎えられた。就任の儀には、あの鎮玄司騎も珍しく姿を見せていた。
銀の鎧に身を包み、凛と立つ椋羽。その姿を遠くから見つめながら、清宵は二百年前に別れた故人の面影を、そこに重ねていた。
また理由もなく俗世に関わったな。いたずらに因果を増やすだけだというのに。
耳元で声が囁く。清宵自身のものと、酷似した声で。
あの娘もいつか、残像との戦場で倒れるやもしれないぞ。そう、あの時の鈴坊のように。そして……若雲のように。
今度は、いつまで守るつもりだ? 守ったところで、いつまで守りきれるというのか。
清宵は、何も答えなかった。
清宵が飛剣から降り立つと、府内の人々は次々と手を止め、彼女へと視線を送る。
彼女は先ほど、秋鴻衛長・梁鳶からの伝書を受け、とある
「すべて片付けた」と、清宵は短く告げる。
衛長は礼を述べて頷いたものの、その眉間に刻まれた皺は消えない。ここ数年、咎庭の警備交代では不備が絶えなかった。混乱に紛れて残像が逃げ出すこともあれば、機巧の故障によって異常が発生することもある。今の後玄三騎は勇猛で息もぴったりだが、一人が重傷を負って第一線を退いてからは、若い定玄衛が臨時でその穴を埋めている。経験の浅い彼女には、どうしても手の回らない場面がある。一刻も早く、正式な後任を選ばなければならない。
とはいえ、それは清宵には関わりのない話だった。飛剣へ足をかけようとしたその時、不意にためらいがちな声が彼女を呼び止めた。
「仙人様! ……じゃなくて、清宵司騎! 私……剣を教えていただきたいんです。だめ……でしょうか?」
振り返った清宵の目に映ったのは、髪をきりりと束ねた少女──椋羽だった。手には一振りの長槍が握られている。その表情には、迷いの色が浮かんでいた。
「青枳と杜仲と、しばらく一緒に戦ってきたんです。でも二人とも、やっぱり剣士との連携のほうが慣れているみたいで……。私の得物は槍ですから……その……」
「人に教えるのは得意ではない。それに、あなたが剣を学ぶ必要もない」清宵の口調は、いつも通り淡々としていた。
「そう……ですよね。分かりました……」椋羽は伏し目がちに呟いた。「それでは、ほかの方法を考えてみます」
「だが、槍ならば……教えてやってもよい」
「えっ?」
目の前の女性の身のこなしは、飛び立つ燕のように軽やかだった。銀の槍はその手の中で自在に舞い、風の流れに応じて姿を変えながら、月白の軌跡を幾筋も宙へ描いていく。それは武人の得物というより、書家の筆のように、一つ一つの型が行雲流水のごとく、自在に運ばれていた。
椋羽は、あんぐりと口を開けたまま固まっていた。
「清宵司騎……槍までお使いになれるんですか?」
「昔、人が使うのを見たことがあるだけだ。天下の武芸は、どこかで通じ合っている。心の赴くまま槍先を届けられるなら、その槍は剣にも引けを取らない」
清宵はそう言って、槍を椋羽へ返した。
「やってみるがよい」
椋羽は覚悟を決めて、清宵の示した型を一通りなぞってみた。だが、型は乱れたままで、隙だらけだった。
「もう一度だ」
清宵は短く促した。
日が暮れるまで稽古を重ねても、椋羽はまだ形にできずにいた。清宵は手取り足取り教えることはしない。示される槍法はあまりに高度で、その動きには千変万化の気配が宿っていた。それでも椋羽は諦めず、槍の勢いの移ろいを感じ取り続けた。そして、ふとした瞬間──槍先が風とともに空を裂き、これまでとはまるで違う鋭さを放った。
はっと我に返った椋羽の耳に、小さな拍手が届く。清宵だった。
「掴んだな」
「でも私、清宵司騎の動きには全然ついていけなくて……」
「まったく同じにできたなら、それはかえってあなた自身の悟りではなくなるだろう」
清宵の表情は、珍しく柔らかかった。
「心はすでに届いている。あとは日々の稽古を重ねるのみ」
椋羽はぽかんと清宵を見つめ、やがて、何かを掴んだように深く頷いた。
その後、軍策府には新たな
銀の鎧に身を包み、凛と立つ椋羽。その姿を遠くから見つめながら、清宵は二百年前に別れた故人の面影を、そこに重ねていた。
また理由もなく俗世に関わったな。いたずらに因果を増やすだけだというのに。
耳元で声が囁く。清宵自身のものと、酷似した声で。
あの娘もいつか、残像との戦場で倒れるやもしれないぞ。そう、あの時の鈴坊のように。そして……若雲のように。
今度は、いつまで守るつもりだ? 守ったところで、いつまで守りきれるというのか。
清宵は、何も答えなかった。
雲淵の役、その後
雨の気配が、ゆっくりと立ち込めていく。清宵はふっと息を吐き、剣を手にしたまま、夜空に浮かぶ二つの月を見上げた。
ひときわ目を引く満月は紫の幻光をまとい、夜空の大半を覆い尽くしている──無相燹主が、冷ややかな眼差しで雲陵谷を、そして清宵を見下ろしていた。飛剣でどれほど残像を斬り伏せても、その空白を埋める兵は尽きることなく現れる。鳴式 の力の源を一刻も早く突き止め、断たねばならない。さもなくば、残像は永遠に湧き続ける。
──急がねば。淵城 が、まだ待っている。
梢の雪が肩に落ち、座禅を組んでいた清宵は静かに目を開き、回想から現実へと戻っていく。
雲淵の役 が終わって間もなく、玄方地界 には季節外れの大雪が三日三晩降り続いた。清宵の住まうこの名もなき峰もまた、静かな白銀に包まれていた。
背の高い黒髪の女が、雪を踏みしめ清宵の背後に立った。その両手は、しとやかに体の前で揃えられている。
「……心か」清宵は静かに言った。
「あら、清宵仙人ったら、どうして分かったのかしら?あ、もしかして匂い?」
心は少し驚いた様子で、自分の袖や肩をくんくんと嗅いでみせる。黒髪が雪色に変わるにつれ、隠しきれなくなった狐耳が頭上に現れる。装いも表情も、神としての姿へと移ろっていった。清宵は立ち上がり、静かな眼差しでその「神」を見据える。
「鳴式が襲来したとき、どこにいた?」
清宵は冷ややかに問う。
凛と冷えた剣意が見えない刃と化し、二人の周りを包み込む。
「あのときは、神居の中にいたわ、清宵。みんな……最善を尽くしたのよ」心の狐耳が、しゅんと垂れた。
二人はそのまま見つめ合い、やがて梢から、また一つ、雪の塊が落ちた。
「……いささか、気が立っていたようだ」
清宵は静かに目を伏せる。
「実はね、今日は誘いに来たの」
心は一歩、清宵へ歩み寄った。
「今の玄方地界は復興の最中で、まだ多くの火種を抱えているわ。だから軍策府に、あなたのための役職を設けてもらおうと思っているの。名付けて「鎮玄司騎」──公の肩書きがあれば、何かと動きやすいでしょう?」
「鎮玄司騎……」
「難しい政務を任せるつもりはないわ。いざという時だけ、玄方地界を助けてくれれば十分。それに、引き受けたあとでも辞めたくなれば、いつでも辞められる。どうかしら?」
黙り込む清宵に、心は優しく微笑みかけた。
「今すぐ答えなくてもいいのよ。玄方城も完成したことだし、まずはあちらで暮らしながら考えてみない?」
清宵は首を横に振った。
「……いや、やめておこう。ここは人里から遠く静かだ。修行には持って来いの地」
「また、その理由なのね?いいわ。玄方城は、いつでもあなたを待っているから」
言い終えると、心は身を翻して歩き出した。そのまま去るかと思えば、数歩のところで足を止め、肩越しに振り返る。
「あと数か月もしたら……また朝月会があるの。みんなの想いでもあるのよ。そのときは、一緒にお祝いしましょうね、清宵」
心が狐の影となって去っていくのを、清宵は静かに見送った。
それから崖の縁へと歩み寄り、戦火をくぐり抜けたばかりの玄方地界を見渡す。かつて淵城があった場所には、今はただ、静まり返った深淵だけが口を開けていた。
一陣の風が耳元を吹き抜けていく。まるで、誰かが啜り泣くかのように。
ひときわ目を引く満月は紫の幻光をまとい、夜空の大半を覆い尽くしている──無相燹主が、冷ややかな眼差しで雲陵谷を、そして清宵を見下ろしていた。飛剣でどれほど残像を斬り伏せても、その空白を埋める兵は尽きることなく現れる。
──急がねば。
梢の雪が肩に落ち、座禅を組んでいた清宵は静かに目を開き、回想から現実へと戻っていく。
背の高い黒髪の女が、雪を踏みしめ清宵の背後に立った。その両手は、しとやかに体の前で揃えられている。
「……心か」清宵は静かに言った。
「あら、清宵仙人ったら、どうして分かったのかしら?あ、もしかして匂い?」
心は少し驚いた様子で、自分の袖や肩をくんくんと嗅いでみせる。黒髪が雪色に変わるにつれ、隠しきれなくなった狐耳が頭上に現れる。装いも表情も、神としての姿へと移ろっていった。清宵は立ち上がり、静かな眼差しでその「神」を見据える。
「鳴式が襲来したとき、どこにいた?」
清宵は冷ややかに問う。
凛と冷えた剣意が見えない刃と化し、二人の周りを包み込む。
「あのときは、神居の中にいたわ、清宵。みんな……最善を尽くしたのよ」心の狐耳が、しゅんと垂れた。
二人はそのまま見つめ合い、やがて梢から、また一つ、雪の塊が落ちた。
「……いささか、気が立っていたようだ」
清宵は静かに目を伏せる。
「実はね、今日は誘いに来たの」
心は一歩、清宵へ歩み寄った。
「今の玄方地界は復興の最中で、まだ多くの火種を抱えているわ。だから軍策府に、あなたのための役職を設けてもらおうと思っているの。名付けて「鎮玄司騎」──公の肩書きがあれば、何かと動きやすいでしょう?」
「鎮玄司騎……」
「難しい政務を任せるつもりはないわ。いざという時だけ、玄方地界を助けてくれれば十分。それに、引き受けたあとでも辞めたくなれば、いつでも辞められる。どうかしら?」
黙り込む清宵に、心は優しく微笑みかけた。
「今すぐ答えなくてもいいのよ。玄方城も完成したことだし、まずはあちらで暮らしながら考えてみない?」
清宵は首を横に振った。
「……いや、やめておこう。ここは人里から遠く静かだ。修行には持って来いの地」
「また、その理由なのね?いいわ。玄方城は、いつでもあなたを待っているから」
言い終えると、心は身を翻して歩き出した。そのまま去るかと思えば、数歩のところで足を止め、肩越しに振り返る。
「あと数か月もしたら……また朝月会があるの。みんなの想いでもあるのよ。そのときは、一緒にお祝いしましょうね、清宵」
心が狐の影となって去っていくのを、清宵は静かに見送った。
それから崖の縁へと歩み寄り、戦火をくぐり抜けたばかりの玄方地界を見渡す。かつて淵城があった場所には、今はただ、静まり返った深淵だけが口を開けていた。
一陣の風が耳元を吹き抜けていく。まるで、誰かが啜り泣くかのように。
己心の魔を斬る
修真者はいつの世も、心を修めることを本分とし、共鳴を操る技の極致を追い求める。その道の途上において、己自身と向き合うことは避けて通れない。
はるか昔。山奥に入って修真を始めたばかりの清宵に、師匠はある重大な役目を言い渡した。
「清や、吾の修為はすでに限界に達しておる。それを突破すべく、心中の魔障を斬り払うつもりだ。ついては、お主に『剣を持つ者』を務めてもらわねばならぬ」
「『剣を持つ者』……ですか?」
「万一吾が不覚を取り、己心の魔に身を奪われたならば、お主が吾を斬るのだ」
そう語る静微真人の表情はあくまで穏やかで、口ぶりも淡々としており、まるで日々の食事について語るかのような、ささいな用件に聞こえた。
「そんなこと……弟子には、できません」
清宵は首を振った。
「修真を始めて間もないとはいえ、お主の剣術は抜きん出ておる。この大任にも、十分に堪えられよう」
「いいえ。弟子の身で、師匠に刃を向けるなど……それでは……道に背きます」
静微は、珍しく笑った。
「大道は無情。修真とは、もとより一局の碁に似ておる。ひとたび石を置けば、悔いることは許されぬ。それとも──万一吾がしくじった折、正気を失って狂い果てた吾の姿を、お主は見たいと申すか?」
清宵は長く黙り込み、最後にはその役目を引き受けた。
翌日の深夜。師匠から渡された一筋の周波数を頼りに、清宵は師匠の内なる景色へと足を踏み入れた。
静微の心象に広がっていたのは、雲を突くほど高く、白雪を頂く一つの峰だった。だが今、峰の全体は濃い霧に呑まれ、数歩先すら見通せない。清宵は頂に座し、剣を膝の上に横たえて、師匠と己心の魔の決着がつくのを、息を潜めて待ち続けた。
もし師匠が敗れたら──自分は本当に、師匠へ剣を振り下ろせるのか。その答えは、清宵自身にも分からなかった。
線香が燃え尽きた頃、前方の霧の中に、ぼんやりと人影が浮かんだ。清宵はすぐさま立ち上がり、剣を胸の前に構える。霧が晴れるにつれて人影ははっきりと輪郭を増し、ついにその姿をあらわにした。
「清や、成ったぞ」
静微は淡々と告げた。
気づけば頂の霧はすっかり晴れ、東の空に朝日が昇り、あたりは朝焼けの光に満ちていた。
「……師匠。私の入門の宴に出た、あの紅焼肉のお味は、いかがでしたか?」
問いかける清宵に、静微は静かに返す。
「吾は紅焼肉など頼んでおらぬ」
本物の師匠が、帰ってきた。剣を取り落としそうになるほど、清宵は深く胸をなでおろした。
「修真の道では、誰もが己心の魔に出会うものなのですか?」
内なる景色を出る道すがら、清宵は静微に尋ねた。
「あれは修真者の自我より生まれるもの。長く生きれば、いずれ必ずまみえよう」
静微の表情は相変わらず淡々としており、己心の魔を斬り伏せたことなど、今の彼女には些事にすぎないようだった。
「己心の魔と対峙したら、どちらかが滅びるしかないのでしょうか」
清宵はうつむいたまま問う。
「その通り。たとえお主が対決を先送りにしようとも、いつかは必ず、決着をつける日が来よう」
しばらくの沈黙ののち、清宵は顔を上げた。
「己心の魔が自分の一部だというのなら……私は、ほかに歩むべき道がないか、探してみたいのです」
その言葉に静微は足を止め、傍らの弟子へと目を細めた。
「良い心がけである。だが、いつの日かお主が己心の魔に取り憑かれても、吾は助太刀はせぬぞ」
いかにも師匠らしい物言いだった。彼女は完璧な修真者であり、俗縁にも因果にも決して染まらない。心の雑念まで斬り捨てた今、ますます情が淡白になるのも道理だ。清宵は、意外だとも思わなかった。
「その時が来たら、お主も吾に倣うて、良い弟子を取るがよい」
「……えっ?」
思わず見上げた師の顔──その淡々とした表情には、ほんのかすかな笑みがにじんでいるようだった。
はるか昔。山奥に入って修真を始めたばかりの清宵に、師匠はある重大な役目を言い渡した。
「清や、吾の修為はすでに限界に達しておる。それを突破すべく、心中の魔障を斬り払うつもりだ。ついては、お主に『剣を持つ者』を務めてもらわねばならぬ」
「『剣を持つ者』……ですか?」
「万一吾が不覚を取り、己心の魔に身を奪われたならば、お主が吾を斬るのだ」
そう語る静微真人の表情はあくまで穏やかで、口ぶりも淡々としており、まるで日々の食事について語るかのような、ささいな用件に聞こえた。
「そんなこと……弟子には、できません」
清宵は首を振った。
「修真を始めて間もないとはいえ、お主の剣術は抜きん出ておる。この大任にも、十分に堪えられよう」
「いいえ。弟子の身で、師匠に刃を向けるなど……それでは……道に背きます」
静微は、珍しく笑った。
「大道は無情。修真とは、もとより一局の碁に似ておる。ひとたび石を置けば、悔いることは許されぬ。それとも──万一吾がしくじった折、正気を失って狂い果てた吾の姿を、お主は見たいと申すか?」
清宵は長く黙り込み、最後にはその役目を引き受けた。
翌日の深夜。師匠から渡された一筋の周波数を頼りに、清宵は師匠の内なる景色へと足を踏み入れた。
静微の心象に広がっていたのは、雲を突くほど高く、白雪を頂く一つの峰だった。だが今、峰の全体は濃い霧に呑まれ、数歩先すら見通せない。清宵は頂に座し、剣を膝の上に横たえて、師匠と己心の魔の決着がつくのを、息を潜めて待ち続けた。
もし師匠が敗れたら──自分は本当に、師匠へ剣を振り下ろせるのか。その答えは、清宵自身にも分からなかった。
線香が燃え尽きた頃、前方の霧の中に、ぼんやりと人影が浮かんだ。清宵はすぐさま立ち上がり、剣を胸の前に構える。霧が晴れるにつれて人影ははっきりと輪郭を増し、ついにその姿をあらわにした。
「清や、成ったぞ」
静微は淡々と告げた。
気づけば頂の霧はすっかり晴れ、東の空に朝日が昇り、あたりは朝焼けの光に満ちていた。
「……師匠。私の入門の宴に出た、あの紅焼肉のお味は、いかがでしたか?」
問いかける清宵に、静微は静かに返す。
「吾は紅焼肉など頼んでおらぬ」
本物の師匠が、帰ってきた。剣を取り落としそうになるほど、清宵は深く胸をなでおろした。
「修真の道では、誰もが己心の魔に出会うものなのですか?」
内なる景色を出る道すがら、清宵は静微に尋ねた。
「あれは修真者の自我より生まれるもの。長く生きれば、いずれ必ずまみえよう」
静微の表情は相変わらず淡々としており、己心の魔を斬り伏せたことなど、今の彼女には些事にすぎないようだった。
「己心の魔と対峙したら、どちらかが滅びるしかないのでしょうか」
清宵はうつむいたまま問う。
「その通り。たとえお主が対決を先送りにしようとも、いつかは必ず、決着をつける日が来よう」
しばらくの沈黙ののち、清宵は顔を上げた。
「己心の魔が自分の一部だというのなら……私は、ほかに歩むべき道がないか、探してみたいのです」
その言葉に静微は足を止め、傍らの弟子へと目を細めた。
「良い心がけである。だが、いつの日かお主が己心の魔に取り憑かれても、吾は助太刀はせぬぞ」
いかにも師匠らしい物言いだった。彼女は完璧な修真者であり、俗縁にも因果にも決して染まらない。心の雑念まで斬り捨てた今、ますます情が淡白になるのも道理だ。清宵は、意外だとも思わなかった。
「その時が来たら、お主も吾に倣うて、良い弟子を取るがよい」
「……えっ?」
思わず見上げた師の顔──その淡々とした表情には、ほんのかすかな笑みがにじんでいるようだった。
剣の心、未だ改まらず
瞑想中、夢とうつつの狭間で、清宵は時折、はるか昔の記憶へと沈んでいくことがある──
「清、あんたが追っ払ったあの剣客のじいさん、また来たよ!」
村の子どもたちが知らせに来たとき、清は木陰に座って秘伝書をめくりながら、木の枝で剣の型をなぞっていた。手首の赤紐に通した珠玉が、木漏れ日を受けてちらちらと光っていた。
秘伝書には奥深い剣術がいくつも記されていたが、何度繰り返しても真似できるのは形ばかりで、神髄をつかむには程遠かった。
「こほっ、こほっ……羊を見ていてちょうだい。もう一度、あの男に会ってくる」
先月こじらせた風邪がまだ抜けきらず、思わず咳が漏れる。
事の発端は数日前のことだった。よそから流れてきた年老いた剣客が、村の小さな宿で薬酒をあおり、酔った勢いで代金を踏み倒そうとしたのだ。しかも剣を抜くことすらなく、止めに入った店の若い衆を次々となぎ倒してしまった。最後は見かねた清が木の枝一本を手に立ち向かい、見よう見まねの剣法で老剣客の右手の急所を突き、見事その手から剣を叩き落とした。
宿へ向かうと、老剣客は前回と同じように広間の中央へ腰を据え、剣を抱いて座っていた。ただ一つ違うのは、卓の上にもう一振りの剣が置かれていることだった。
「座れ。ずっと待っておったぞ、嬢ちゃん。お前さんがこの前使った剣術は、只者の手によるものではないな」
「あんたに、何の関係があるの?」
清は堂々と、老剣客の向かいに腰を下ろした。
「一つ聞かせてくれ。お前さんは、何のために剣を習う?」
「体を鍛えるため……あとは、あんたみたいな厄介者を追い払うため」
老剣客はふっと笑った。
「足りんな。千人万人を相手にできる剣術でも、この世の中を生き抜くには、まだ足りん。お前さんの行く手を阻む無理難題ってのは、いつだって、その手の中にある剣よりも強いもんだ」
「少なくとも……そばにいる人くらいは、守れるもの」
清がそう言い返すと、老剣客は卓の上に置いてあった剣を、すっと清のほうへ押しやった。
「なら、その言葉を忘れるな。これからはこいつで鍛えることだ。木の枝では、どうしたって本物には敵わんからな」
清は半信半疑で、その「剣」を持ち上げた。ずしりと重く、慣れるまで時間がかかりそうだ。そして、ふと気づく。
「これ……剣というより、刀みたい」
見た目は地味で飾り気がなく、鍔元にひと筋の金色が光るだけ。それでいて、どこか静かな迫力を湛えていた。
「あの者の剣を学びたいのなら、こいつから始めるのが早道ってもんだ」
それからしばらく経ったある日。残像潮が怒涛の如く押し寄せ、清の故郷を呑み込んだ。
清の漂泊は、そこから始まった。当時の腕では残像を前に己の身を守るのが精一杯であり、死力を尽くしても、救い出せた村人はわずか十数人にすぎなかった。人々を連れて逃げる道すがら、清ははるか遠くに、天を衝いて立ちのぼる何筋もの剣気を見た。残像潮は、それから間もなく収まった。
なぜだろう──その光景を前に、清はあの老剣客のことを思い出していた。
「清、あんたが追っ払ったあの剣客のじいさん、また来たよ!」
村の子どもたちが知らせに来たとき、清は木陰に座って秘伝書をめくりながら、木の枝で剣の型をなぞっていた。手首の赤紐に通した珠玉が、木漏れ日を受けてちらちらと光っていた。
秘伝書には奥深い剣術がいくつも記されていたが、何度繰り返しても真似できるのは形ばかりで、神髄をつかむには程遠かった。
「こほっ、こほっ……羊を見ていてちょうだい。もう一度、あの男に会ってくる」
先月こじらせた風邪がまだ抜けきらず、思わず咳が漏れる。
事の発端は数日前のことだった。よそから流れてきた年老いた剣客が、村の小さな宿で薬酒をあおり、酔った勢いで代金を踏み倒そうとしたのだ。しかも剣を抜くことすらなく、止めに入った店の若い衆を次々となぎ倒してしまった。最後は見かねた清が木の枝一本を手に立ち向かい、見よう見まねの剣法で老剣客の右手の急所を突き、見事その手から剣を叩き落とした。
宿へ向かうと、老剣客は前回と同じように広間の中央へ腰を据え、剣を抱いて座っていた。ただ一つ違うのは、卓の上にもう一振りの剣が置かれていることだった。
「座れ。ずっと待っておったぞ、嬢ちゃん。お前さんがこの前使った剣術は、只者の手によるものではないな」
「あんたに、何の関係があるの?」
清は堂々と、老剣客の向かいに腰を下ろした。
「一つ聞かせてくれ。お前さんは、何のために剣を習う?」
「体を鍛えるため……あとは、あんたみたいな厄介者を追い払うため」
老剣客はふっと笑った。
「足りんな。千人万人を相手にできる剣術でも、この世の中を生き抜くには、まだ足りん。お前さんの行く手を阻む無理難題ってのは、いつだって、その手の中にある剣よりも強いもんだ」
「少なくとも……そばにいる人くらいは、守れるもの」
清がそう言い返すと、老剣客は卓の上に置いてあった剣を、すっと清のほうへ押しやった。
「なら、その言葉を忘れるな。これからはこいつで鍛えることだ。木の枝では、どうしたって本物には敵わんからな」
清は半信半疑で、その「剣」を持ち上げた。ずしりと重く、慣れるまで時間がかかりそうだ。そして、ふと気づく。
「これ……剣というより、刀みたい」
見た目は地味で飾り気がなく、鍔元にひと筋の金色が光るだけ。それでいて、どこか静かな迫力を湛えていた。
「あの者の剣を学びたいのなら、こいつから始めるのが早道ってもんだ」
それからしばらく経ったある日。残像潮が怒涛の如く押し寄せ、清の故郷を呑み込んだ。
清の漂泊は、そこから始まった。当時の腕では残像を前に己の身を守るのが精一杯であり、死力を尽くしても、救い出せた村人はわずか十数人にすぎなかった。人々を連れて逃げる道すがら、清ははるか遠くに、天を衝いて立ちのぼる何筋もの剣気を見た。残像潮は、それから間もなく収まった。
なぜだろう──その光景を前に、清はあの老剣客のことを思い出していた。
無情に見えれど、情は確かに在る
ある日のこと。あの人が去ったあと、清宵は峰の頂の小屋へ戻った。腰を下ろすと、少し離れた古びた鏡台に、別の姿をした自分が映っていた。
月白の長衣をまとい、紫の瞳をした蒼髪のその女は、鏡の中から、まっすぐにこちらの目を見つめていた──
これで満足だとでも?
「もう、十分だ」
いいや、違う。お前の心には、まだ多くの隠し事がある。
清宵よ。あの者を弟子に取っておきながら、どうして口にしなかった? お前自身、一度は願ったことがあったではないか……{Male=彼;Female=彼女}の弟子になりたいと。
「私には、すでに師がいる」
ふん。静微師匠は一度として、お前の剣法を己が授けたなどと認めたことはないだろうに。
あの秘伝書が大切な巡り合わせだったと、お前は{Male=彼;Female=彼女}に語った。だが、決して口にはしなかったな。幼い頃、その秘伝書を撫でながら、{Male=彼;Female=彼女}はどんな人物なのだろうと思い描き……幾度となく想いを馳せていた日々のことは。
瑝瓏 であの者の足取りを探したことがあると、お前は語った。それでも口にはしなかった。あの時、山を下りて旅へ出た理由は、師より授かった天問の答えを探すためだけではなく──{Male=彼;Female=彼女}を見つけ出したかったからだということを。
「ああ。それは確かに、この清宵が……かつて抱いていた想いだ」
「あの頃、もし機会があったなら。それもまた、一つの道だったのだろう」
ならば……それほどの想いを抱きながら、なぜ素直に伝えようとしない?
「伝えられないのではない。……伝えてはならないのだ」
「あの者がこの生を、もう一度やり直すと決めた以上、遠い昔の出来事で、その歩みを乱すわけにはいかない」
殊勝なことだ。
もうじき{Male=彼;Female=彼女}は、人の世を救うために、新たな旅へ出るのだろう。師であるお前は、その時どうする?
「……今この時を、大切にするまでだ。弟子とは、いずれ遠くへ旅立つもの。私にも、玄方地界で成すべきことがある」
「これまで共に歩んだ、幾たびかの道行きだけでも──過ぎ去った歳月への慰めとしては、もう十分だ」
その御高説も、その澄ました顔も、もううんざりだ。
「私は生来、自分に嘘はつかない性だ。それに……」
清宵は指先を弦に置き、静かに琴を奏で始めた。清らかな音色が、みるみるうちに部屋を満たしていく。
鏡の中の彼女はため息をつき──それでも、最後には微笑んだ。
山も海も、いつかは越えられる。長き別れの果てにも、必ず再び巡り逢う日が来る。
語ったことも、語らなかったことも──そのすべては、かつて思い乱れたこの音色に託されているのだから。
月白の長衣をまとい、紫の瞳をした蒼髪のその女は、鏡の中から、まっすぐにこちらの目を見つめていた──
これで満足だとでも?
「もう、十分だ」
いいや、違う。お前の心には、まだ多くの隠し事がある。
清宵よ。あの者を弟子に取っておきながら、どうして口にしなかった? お前自身、一度は願ったことがあったではないか……{Male=彼;Female=彼女}の弟子になりたいと。
「私には、すでに師がいる」
ふん。静微師匠は一度として、お前の剣法を己が授けたなどと認めたことはないだろうに。
あの秘伝書が大切な巡り合わせだったと、お前は{Male=彼;Female=彼女}に語った。だが、決して口にはしなかったな。幼い頃、その秘伝書を撫でながら、{Male=彼;Female=彼女}はどんな人物なのだろうと思い描き……幾度となく想いを馳せていた日々のことは。
「ああ。それは確かに、この清宵が……かつて抱いていた想いだ」
「あの頃、もし機会があったなら。それもまた、一つの道だったのだろう」
ならば……それほどの想いを抱きながら、なぜ素直に伝えようとしない?
「伝えられないのではない。……伝えてはならないのだ」
「あの者がこの生を、もう一度やり直すと決めた以上、遠い昔の出来事で、その歩みを乱すわけにはいかない」
殊勝なことだ。
もうじき{Male=彼;Female=彼女}は、人の世を救うために、新たな旅へ出るのだろう。師であるお前は、その時どうする?
「……今この時を、大切にするまでだ。弟子とは、いずれ遠くへ旅立つもの。私にも、玄方地界で成すべきことがある」
「これまで共に歩んだ、幾たびかの道行きだけでも──過ぎ去った歳月への慰めとしては、もう十分だ」
その御高説も、その澄ました顔も、もううんざりだ。
「私は生来、自分に嘘はつかない性だ。それに……」
清宵は指先を弦に置き、静かに琴を奏で始めた。清らかな音色が、みるみるうちに部屋を満たしていく。
鏡の中の彼女はため息をつき──それでも、最後には微笑んだ。
山も海も、いつかは越えられる。長き別れの果てにも、必ず再び巡り逢う日が来る。
語ったことも、語らなかったことも──そのすべては、かつて思い乱れたこの音色に託されているのだから。
清宵 のボイスライン
心の声・その一
心の声・その二
私は常に、琴の音色で剣意を磨いている。剣意とは、想いから生まれるものだからだ。長いこと弾いていると、調べにも自ずと心の声が重なっていく。だが……私の琴の音から、心の奥底までを見抜く人が現れるとは思いもしなかった。「高山流水」――真の理解者とは、中々得難いものだ。いつかまた、月が冴え渡る夜には……あらためて一曲、聴いてもらうとしよう。
心の声・その三
先日の籠城戦で遅れを取った私は、高みから戦場の惨状を見下ろして……必死に戦うあなたを見つけた。あの時、私たちはかつてと完全に立場が逆転していたな。昔のあなたの気持ちが、ようやく分かった気がする。今も昔も、あなたは先の見えない未来のために全力を尽くしている。たとえ我々の行いが、滅びの波をわずかに遅らせるだけだとしても……決して、無駄ではない。
心の声・その四
この構えに見覚えはあるか?ああ、私が修真の道に入る前に使っていた技だ。私が剣を志した原点でもある。次の手合わせは共鳴の力に頼らず、純粋な剣術と意志のみで勝負するとしよう。負けた者は道観の落ち葉掃除だ……弟子よ、行くぞ。
心の声・その五
弟子よ。玄方 もまた、あなたの長い旅路において、ひとつの通過点に過ぎないだろう。いずれ、旅立つ時が訪れるはずだ。共に過ごした日々は、私にとってかけがえのないものとなった。次に会うのは数か月後か、数年後か……それとも、かつてのように100年後か。ふっ、先のことを案じても仕方ない。いずれ、また会おう。その時が来たら、旅で得た見聞のすべてを、お互いの手にする剣に乗せれば良いだけの話。剣を通した対話は、千の言葉にも勝るだろう。
好きなこと
修真の合間に、日々の見聞や悟りを書き留めるようにしている。宙に文字を記す術を得てからは、紙と筆を使うことも稀になった。今ではもっぱら、剣気を用いて内なる景色 に過去を刻んでいる。そうすれば、記憶は容易に消えない。世の移ろいは雲煙過眼の如しと言うが、覚えている者がいる限り、完全に消え去ることはないのだ。
悩み
頭の角は、共鳴の力と共に生じたものだ。この姿になって100年余り経ったが、今もわずかに伸びる兆しがある。もし数寸でも伸びようものなら、少し勝手が変わってくるだろう。いっそのこと、剣で……いや、何でもない。
好きな食べ物
食にこだわりはない。修真の身である以上、食欲は抑えるべきだ。長年、辟穀を修めてきたようにな。だが、印象に残っているものをあげるとすれば……かつて淵城 の朝月会で味わった、「淵中鮮」の料理だな。淵城は失われてしまったが、あの味が今も受け継がれているのは、不幸中の幸いと言える。
嫌いな食べ物
重州の料理は総じて、味が濃くて辛い。私にはどうも馴染まないな。心はそれを知ったうえで、私に勧めた菓子にこっそり重州産の辣醤 を混ぜてきたことがある。あの時、顔には出さなかったが……つい、茶を何杯もおかわりしてしまった。
夢
道を得て仙人となる、か……多くの者が目指す到達点だ。私も考えなかったわけではない。だが、大道は果てしなく、山を越えた先にも山が続くもの。私たちは常に途上にある。ただ、より遠くまで歩んだ者がいるというだけの話。今となっては、無心で修真に打ち込み、剣術を磨き続けるのも……結局のところ、心の安寧のために過ぎない。
伝えたいこと・その一
修真の道に入った当初は、どうにも心が落ち着かなくてな。効能があると聞いては、こっそりと体に絹の紐を何重にも巻きつけていた。実際、気休めにはなったのか……修真が進むにつれ1本ずつ外していき、今は左手のものだけが残っている。後になって知ったのだが……師匠は最初から気づいていたらしい。しかし、あえて口には出さなかったようだ。この紐に特別な力などなく、私が勝手に拠り所にして雑念を払っているに過ぎない、と考えて。これを今も残しているのは、自らの戒めとするためだ――修真の要は、「誠心」にある。
伝えたいこと・その二
心について
心は自由奔放で情感豊かだ。瑝瓏 のほかの歳主 とは、まるで気質が違っていてな。私に鎮玄司騎の任に就くよう勧めてくれたのも、心だった。当時はよく山に上がってきては、玄方 の逸話や他愛のない雑事を語り……一度口を開けば、話が尽きることはなかった……唯一、私が琴を弾いている時だけは、静かに耳を傾けてくれたな。その時……心はふと、寂しげな表情を見せたものだ。本人は私の前で、うまく隠せているつもりだったのだろうが……
長離について
離火は、この世でも稀なくらい危険な力だ。私の清心の術を尽くしても、彼女が受ける灼熱の苦しみを和らげるのが精一杯だった。己の身を焼き尽くさぬよう心を修め、力の流れを制御するほかない……幸い、今では力を自在に操れるようになったようだな。失われた寿命は戻らないが……これ以上、彼女が自分をすり減らすような真似をしなければ、大事に至ることもないだろう。これもまた、あなたのおかげだ。
秧秧について
初めて彼女と出会った時、一瞬……玄翎が戻ってきたのかと思った。人の世の冷暖を見極め、他者の心の声に耳を傾ける。その剣捌きは一見柔らかでありながら、誰にも負けない芯の強さを持つ。名状しがたい何かが彼女を追い、旅立つように押しやっているようだ……あるいは、彼女が玄翎に似ているのではなく、玄翎が彼女に似ていたのかもしれないな。
卜霊について
天賦の才に恵まれた、鋭い感性を持つ子だ。雷を操る術はかなりの域に達しているが、人前で力をひけらかすことは滅多にない。あの時あえて厳しく試したのは、潜在力を見極めたかったからからだ。もし修真に専心していれば、そう遠からず師匠の域に追いつくこともできただろうからな。だが、その道は彼女の性分に合っていないようだ。そういえば先日、彼女から光る騎士の剣が送られてきてな。リナシータ で見つけた旅のお土産だそうだ。ふむ……まあ、あれは彼女なりの心遣いというやつだろう。
景燃について
かつて奴の師匠に会った時、あるソノラへ向かう旅の吉凶を占ってほしいと頼まれたことがある。占いは得意ではないが、それでも試してみた結果……「大凶」が出た。だが、あの男は不敵に笑い、そのまま旅立ってしまった。やがて、あの少年が師匠の装いを纏って私の前に現れた時……その顔には、師匠に輪をかけたような奔放な笑みが浮かんでいたな。たとえ行く先が波乱に満ち、薄命な定めが待っていたとしても……己の思いのままに恩讐を晴らし、何にも縛られずに生きられるのなら、無駄な生涯とは決して言えない。
若雲について
若雲は幼い頃から皆の手で育てられた。自身の機巧術で故郷のために何かできないかと、いつも考えていたようだ。今の玄方にある多くの技術は、彼女の遺した研究が元になっている。早くに亡くなった両親が若雲と名付けた理由は、空を流れる雲のように、気負わず自由に生きてほしいと願ったからだ。だが、彼女が最後に下した決断は……決して、そのように身軽なものではなかった。彼女が頼りにしていた「剣仙様」でさえ、結局のところ……彼女を守り抜くことはできなかったのだからな。
静微について
修真の道において、師匠は私の遥か先を歩んでおられる。俗世の縁を絶ち、因果を超えた仙人の域にあるお方だ。修真と琴の心得を授けてくださった、大恩ある師匠ではあるが……正直なところ、私はあまり言うことを聞く弟子ではなくてな。ああ、もちろん今もご健在だ。いつか、彼女本人にお会いするようなことがあれば……よろしく伝えてほしい。
誕生日祝い
今日はあなたの誕生日だな。そこに座るといい、一曲弾こう。日々、世のために奔走しているせいで、休む暇などないだろう。今日くらい、ゆっくりしてほしいのだ。この麺のことか? ああ、長寿麺だ。私が手で生地を捏ね、飛剣で削り出した……初めて作ったゆえ味の保証はできないが、まずは一口、食べてみてくれないか、弟子よ。この世に、幸福を授ける仙術など存在しない。だが、私は心から祈っている。あなたの長い人生が順風満帆に進み、願いが成就することを。
余暇・その一
台詞なし。
余暇・その二
姿を分かち影を散らし、幻を現と為す……戻れ。
余暇・その三
台詞なし。
自己紹介
鎮玄司騎、清宵だ。ただの修真者に過ぎない。長き歳月を経て再会したのも何かの縁。共に剣を携え、歩むとしよう。
最初の音
弦は悠久の静寂を紡ぎ、剣は満天の澄明を起こす。
チームに編入・その一
また共に行こう。
チームに編入・その二
この先の道は読めない。私からあまり離れるな。
チームに編入・その三
発つ前に、一曲聞いてくれないだろうか。
突破・その一
修真に焦りは禁物だ。日々怠らずにいれば、自ずと精進するもの。
突破・その二
この一筋の剣意が、私たちの心を結んだ。受けた恩恵は、この身をもって報いよう。
突破・その三
心の湖が、いっそう澄み渡っていく……あなたがそばにいるからこそ、私は憂いなく、自らの迷いと向き合えるのだ。
突破・その四
「師は必ずしも弟子より賢ならず」と言うように……結局、私はあなたから多くを学んでしまったな。弟子よ、あなたにはどう報いれば良いのだろうか。
突破・その五
かつて各地を旅していた頃は……私の剣術こそ、至高の存在だと信じていた。今思えば、浅はかな自分を恥じるばかり。世は広く、剣の道に果てはない。手にした剣で大切な物や人を守ってこそ……本当の意味で至高と呼べるのだ。弟子よ……もしあなたに害を及ぼす者が現れたら、まずはこの剣に問うといい。
通常攻撃・1
流るる光よ。
通常攻撃・2
打ち砕く。
通常攻撃・3
空を裂く。
通常攻撃・4
刃と化せ。
通常攻撃・5
光を分かつ影。
通常攻撃・6
塵ひとつ残さん。
通常攻撃・7
悪を討つ。
重撃・1
気を練ろう。
重撃・2
我が心は、剣と共に。
重撃・3
手短に決着をつけよう。
重撃・4
玉石砕く調べ、天地舞う剣。
重撃・5
清き光よ、海を裂け。
重撃・6
どこまで耐えられるのだろうな。
空中攻撃・1
烈風。
空中攻撃・2
氷雨。
空中攻撃・3
移ろえ。
空中攻撃・4
貫け。
共鳴スキル・1
流星の如く。
共鳴スキル・2
虚空を御する。
共鳴スキル・3
風纏う剣の舞。
共鳴スキル・4
天罰を代行する。
共鳴スキル・5
雲を落とす飛星。
共鳴スキル・6
穿つ。
共鳴スキル・7
散るのだ。
共鳴解放・1
澄み渡る響き、淀みを漱がん。
共鳴解放・2
凍てつく刃よ、汚れを払え!
共鳴解放・3
万感の想いを、この一振りに!
変奏スキル・1
この手で払い除けよう。
変奏スキル・2
調を移し、音を換える。
回避
読んでいた。
パリィ・1
劫を滅す。
パリィ・2
砕けろ。
回避反撃・1
それで終わりか?
回避反撃・2
……やかましい。
ダメージ
油断したな。
重傷・1
……流れを見極めよう。
重傷・2
案ずるな、気を練り直すまでだ。
重傷・3
剣捌きを速める!
戦闘不能・1
剣を抜いた以上、後悔などない……
戦闘不能・2
間に、合わなかったか……
戦闘不能・3
弦は断たれ、縁も尽きた……
音骸スキル・召喚
我が命に従え。
音骸スキル・変身
意のままに形を成す。
敵に遭遇
用心するのだ、妖魔の気配がする。
滑空
……剣を使ったほうが速い。
スキャン
……見つけた。
ダッシュ・1
急ごう。
ダッシュ・2
ダッシュ・3
神速の光。
補給獲得・1
これもひとつの巡り合わせだろう。
補給獲得・2
受け取るといい。役に立つはずだ。
補給獲得・3
ふむ……思わぬ拾い物だ。